優しい彼

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優しい彼

 あの娘が転校して来て以来、 僕の周りには不穏な空気が流れはじめた。  それは、彼女とあの娘が彼を巡る 戦いが始まったからだ。  見た目は、穏やかな教室なんだけどね……。  彼の目の前では、とっても可愛く笑っている 彼女とあの娘。  彼も、そんな二人を見ながら、  「あの二人、仲いいんだな……」  と微笑みながら僕に言ったけど、    いやいや、全然違いますぅ~。  君の前だけなんですぅ~。  あんなに小悪魔的に可愛く笑ってるのは。  昼休み、彼が席を立ち教室を出た途端に、   「あんた、なに彼女ぶってんのよ」  とあの娘が彼女をぶった切る。    ひぇ~、怖い……、  僕がそう思った瞬間、 即座に彼女もこう答える。   「はぁ? 私は、彼のれっきとした彼女です あなたが、転校してくる前からの!」  あれ? 彼女はあんなキャラだった?  確か……物凄く控えめで、大人しく、 優しい彼女だったはずなんだけど……。  「ふ~ん、でも意外と飽きられてるんじゃない? 彼、言ってたよ。ふふふ」  不敵な笑みを浮かべるあの娘に、 思わず反応した彼女……。 そして、何故か僕までその不敵な笑みに 反応してしまう……。  「ねぇ、二人とも、争いはやめない?」  僕は思わず二人に声をかけた。    「はぁ~? 部外者はだまってて!」  そんな……、二人して声をそろえて 言うなんて……僕は……僕はただ……  「お~い! コロッケパンあったぞ」 廊下から教室にいる僕に向かって彼が パンを投げた。  放物線を描くように僕の両手にパサっと パンがのった。    「今日、天気いいから屋上で食おうぜ!」 いつもはツン多めの彼が優しく微笑んだ。  「うん。わかった」  僕は、満面な笑みを浮かべると彼のもとに 走り寄った。  教室を出た後の彼女とあの娘の様子は わからないけど、二人とも無言で お昼ごはんを食べていたらしい。  廊下を歩く僕に彼が、 「ごめんな……彼女とあの娘の間に挟まれて」 彼からの言葉に驚く僕。 「ううん。大丈夫だよ。これくらい」 「そうか……よかった。ありがとうな。 やっぱり、男同士が気楽でいいな~」  彼が僕にそう言うとキラキラ光る笑顔で 僕の心を撃ち抜いた……。 「う……」  倒れそうになる僕は必死で立位を保つと、 「そうだね。男同士は気楽でいいね」 と微笑んだ。  女子同士の争いに巻き込まれそうに なった僕だけど、彼の優しさに触れ、 超ラッキーな一時だった。
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