※シーン01:童顔執事は…。

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※シーン01:童顔執事は…。

本物執事×偽物執事~難攻不落なキミと僕~ 駒鳴悠然(こまなきゆぜ) *  *  * 人物紹介 主人公:涼風すもあ(すずかぜ):女性。男装(→朱亜)して執事をしている。普段の男装では目立たない野暮ったい男になりきっているが、彼女本人は割とテンションの高いヲタクである。 偽物執事:瀬本朱亜(せもとしゅあ)※主人公の男装の姿。館の主や息子などにいじめられているダメ執事。とにかくモサくて野暮ったい。 先輩執事:木崎映瑠(きさきえいる)(綿貫サクマ):男性。朱亜(すもあ)の先輩。安牌らしいが…… 旦那様:男性。二人が仕えている主人。本名は園田一現(そのだいちげん)。『穀潰し、役立たず、死に損ない』などと朱亜(すもあ)を罵倒してばかりの館の主。 *  *  * 本物執事×偽物執事~難攻不落なキミと僕~    駒鳴悠然(こまなきゆぜ) *  *  *  ※シーン01:童顔執事は…。   はっきり言おう。ココに居るオトコ共は、揃いも揃ってクソ野郎だ。  …理由?なぜなら、 「今夜のメシは要らないからさっさと下がれ!穀潰しが!」  食事の皿が乗ったトレイを放り出すように払い除けられて、見事に全部がひっくり返った。  引きつりそうになる表情筋を、なんとかなだめて、感情ごと抑え込む。 「…畏まりました、旦那様。」  その背中に、一礼を返すが、この館の主は、歯牙にもかけずに立ち去った。  …この家の主は、女と金の亡者であり、その息子は粗野が過ぎて警察の世話になりかけては、その父親の名前と金で逃げ延びている。 奥方はとうに愛想を尽かせて、仕事と言う名目で高飛びしているし、この屋敷に仕える者達も、自らの立場を守るのに必死で、諍いが耐えない。  全てにおいて、目に見えない暴力がないだけマシ…という有様だ。   執事として仕えている身で無ければ、一発や二発……殴るどこらか蹴り捨ててゴミの日に出したいと心底思う。  というかさ、あたし…おっと!  …俺に当たるのはいいけど、食べ物粗末にしないでよ、ほんとに。どこまでゴミなんだ、と腹の中で罵倒し返しながら、料理の残骸を拾い集める。  あーあ。   「……せっかく今日は、美味しい金目鯛が手に入ったのに…」  今日の煮魚は、金目鯛。見栄えも豪華な和食なのに。  脂ものってて、絶対美味しいのに!  いじめるためだけに無駄な労力使う馬鹿なんて、マジ嫌い…! 「瀬本君?」  …おっと。 「あ、先輩」  俺の手元を見て、眉根を寄せる彼は優しい。  でもね、いいんだよ、慣れてるから。……同情しないでほしい。  先輩は、小さくため息を飲み込んで、口元のセリフを取り換えたようだった。 「今日の食事も、お二方ともご入用ではない、と?」 「…はい、いつものも、言われてしまいました」 「ああ……そうか…」  穀潰し、役立たず、死に損ない。    俺が、理不尽にこの屋敷の主たちから投げられる言葉の三大巨頭である。  どれだけ仕事を頑張ろうと、そしてそれが出来ていようと、ただ、憂さ晴らしがしたいだけで突っかかられるので、もういい加減に諦めも付く。  そして、唯一の良心…というか、安牌なのがこの先輩執事である。とりあえず物腰が柔らかいし、礼儀も弁えているのだが、如何せん周りの毒が強いせいで、目立たない。ついでに、メガネが地味さに、拍車を掛けている…可哀想だがどこまでも安牌である 「そういう事なので、片付けておきます」  ああああ、ぐっばい金目鯛の煮つけ……めちゃくちゃおいしいやつ……。 「残念だったね、瀬本君。……あ、でも僕の分は残しておいてほしいな」  …おお、相変わらずの菩薩っぷり。菩薩は生臭いもの食べないけど!  でも、これで少しは浮かばれる思いだわぁ! 「分かりました、では…」  まぁ。どっちにしろ、床に落とされた金目鯛はゴミ箱行きなんだけどね…とちょっとシュンとしつつ。ゴミ袋に入れられた夕飯の残骸を運ぼうと背を向けたところへ。 「あ。そういえば」 「?はい?」  ん?ナンザマショ???  先輩は、人の好い笑みを浮かべて、さらに続けた。   「明日は一日オフだったね、君。予定はあるの?」 「……えーと、…すみません、ちょっと野暮用で」  俺はさりげなく視線を逸らす。すまんが、今更シフトの交代は出来ない相談なんだけどな???  内心で冷や汗をかく俺に、先輩はにこりと微笑みを深めた。 「…そっか。じゃあね」 「はい、それでは」  おっ、よかった!おとがめなしっぽいぞっ?!!    俺はアルカイックスマイルの向こう側で、胸をなでおろしながら、一礼し。  てくてくとその場を後にした。   「…野暮用、ねぇ?」  小さく呟いたその声は、どこかいつもと違った気もしたんだけど。
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