開闢相伝

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19歳の冬、俺は父親と共に初めて刀禰(とね)家を訪れた 隠逸花を持つ少年は10歳になり樹君というらしい 現在の隠逸花が樹君に会いに行くとのことで、念のため周辺の警備的な役割が父に回ってきたのだ 敷地も広く立派な神社だった 参拝を済ませ社務所の方へ向かう 今回会うのは居住区域の方とのことだ 出て来た宮司は穏やかな笑顔で、落ち着いた話し方をする人だった 父と共に予定されている部屋まで案内された時、父の携帯のバイブ音がなった 「すみません、少し失礼してよろしいですか?」 「ええ、どうぞどうぞ」 父が部屋を出ながら 「雪兎、部屋の中を確認させてもらいなさい」 そう言って出て行った すぐに刀禰さんが、 「どうぞご自由に見て下さい」 そう言って座布団を出したりしている 部屋の隅、物の影等ざっと視線を送る 確認とは言っても神社の境内の中にある場所なので、不浄な場があるわけもなく、危険な物があるわけもなく、実際は場所の直接確認と、その報告になる 「ゆきと君…だったかな?今お幾つですか?」 まるで子供に話し掛けるように、刀禰さんが話し掛けてきた 「はい。19歳です」 部屋の外側は障子を開けると大きなガラス張りでベランダのような作りとなっており、縁側に続いて庭が広がっている 「庭の方も確認してもよろしいですか?」 「ええ、もちろんです。どうぞ」 ベランダを開けると、外気が入る 部屋を冷やさないようすぐに閉めて縁側へ出る 立派とまではいかないが、手入れの行き届いた庭だ よく見ると冬なのに花が咲いている木がある この葉は…柊? 「柊…ゆきと君の家にもありますか?さあ、寒いですから、これを着て」 刀禰さんが、縁側に出てきて俺にはんてんを着せたくれた 「ありがとうございます。うちにも柊の木はあります。ですが、ちゃんと花を見たことはなかったので…」 そう言えば白い物が混じっているのを見た気もする 「私は柊の花が好きでしてね。他の花達が休んでいる間に、寒さにも負けずこんな綺麗な花を咲かせてくれる姿が、強さと優しさとはこうあるべきと教えてくれているようでね」 そう言って、まるで尊い物を見るように柊の木を見ている 刀禰さんの口元から白い息が見える 「ありがとうございます。もう中に入ります」 「ええ、今日も冷えますからね」 中に入ると、遠くから声が聞こえてくる 「いつき!もう時間なくなるから、さっさと着替えなさい!」 「え~袴って苦しいから嫌なんだも~ん」 「じゃあ今日は、あんたの好きな明太チーズオムライスにしようかと思ったけど、お魚にするね~」 「え!やだ!やだやだやだ!」 「だったら、さっさと着替えなさい!」 「わかったよ~」 樹君は確か10歳だと聞いていた 同じ神社の息子として生まれ、同じ代々伝わる物を護っていく側でも、立場が違うとこんなにも違うのか… 俺は、親に言われた事に対して嫌だと言ったことはない… …言っていいものだという考えすらなかった 「すみません、騒がしくて」 「あ…いえ…」 …騒がしくて…そう思うだけの事…なんだ これがこの家での日常…なんだ 刀禰さんは、そう言いながらも、嬉しそうに微笑んでいた
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