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柊佳が中学に上がった頃、母親が入院し始めた
胃癌とのことだった
手術当日、父と柊佳と3人で、長い時間を病院で過ごした
こんなに長い時間、神事に関する事以外で3人一緒に過ごしたのは初めてだった
おかしな話だが、父も、母の夫だったのだなと、なんだか改めて感じた
柊佳は不安でいっぱいな顔をしてはいたが、長い時間一緒に居る事が嬉しかったようで、
「あのね、お兄ちゃん…」
「お兄ちゃん、これ知ってる?」
と、沢山話し掛けてきた
退院して来た母は、一回り小さくなったようだった
柊佳は母の代わりに、家事のほとんどをしてくれていたが、時々親戚の叔母が来てくれていたようだった
しばらくすると抗癌剤の為に入院、退院、通院を繰り返すようになる
大学と父の仕事の手伝いで、俺はほとんど家に居る時間がなかったが、見る度に母の体調は良くなるどころか、どんどん悪くなっているように見えた
たまに母に聞くと、抗癌剤のせいで一時的に具合が悪くなってるだけで、治療が効いてる証拠だからと言っていた
樹君が中学生になった
年齢等も考慮して、一番近くに居られる祗茉家の碧君が護り人として同じ中学へ入学した
碧君不在時や、何かしらのサポートが必要になる場合、俺に連絡がくるとのことだ
夏休み、1週間程帰郷する碧君の代わりに、刀禰家を訪れた
久しぶりに訪れた刀禰家の雰囲気は、いつかと同じく穏やかだった
碧君から引き継ぎを受ける
碧君は落ち着いている子だった
幼い頃から何度か会っているが、樹君とは真逆の、あまり感情を表に出さない子だった
開花前とは言え、隠逸花の護り人に任命されるということは、護り人としての知識、技術はもちろん、ある程度は祗茉家の護り人として必要なものも受け継いでいるのだろう
12、3歳でそこまで習得する為の努力は容易に想像出来た
同い年の、自分の護るべき対象が、努力とは無縁の生活をしているのを見て、碧は何を思っただろう
家族や仲の良い友人と離れて、見知らぬ土地の中学に入学することを、どう思っただろう
俺の心配を余所に、樹君と碧君は普通の中学生の男友達として、いい関係を築いていた
表面上は…なのかもしれないが、思ってたよりも碧君が学校生活を楽しんでいるようで安心した
刀禰のおじさんもおばさんも、いい意味で遠慮せず、俺を家族のように迎えてくれた
樹君は年上の俺に少し緊張していたみたいだが、学校生活で培った、少しふざけた俺を出すと、すぐに心を開いた
7歳下の一緒に過ごす時間の少ない妹とは全く違い、9歳下の同性の良く言えば素直、悪く言えば単純な樹君は、何をしても反応が面白く、ついいじりたくなる弟のような感じだった
自分が大きな運命の渦に巻き込まれていくことは知っているはずなのに、まるでそれを忘れているかのように普通に暮らし、隠逸花の事、儀式の事、俺だったら少しでも知りたいと思うような事を何も聞いてこない
俺には全く理解出来なかった
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