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その年の冬
柊佳は受験勉強ラストスパートだ
俺も家に居る時は家事を手伝うようにしたが、叔母が居たことに比べたら、家事をすることは、さほど苦にならないとのことだった
年越しに合わせて、碧君の代わりに刀禰家で過ごす
4年目にもなれば、自分の家の神社のごとく仕事をこなす
さて、明日からは自分の家の神社の手伝いだ
玄関で軽く叔母さんに挨拶をして家の中に入ると、一足先に手伝いを終え、肩にタオルをかけた樹君が何か言いたげに待っていた
ちょっと嫌味を言ってやると、顔にでっかく『やっぱ言いたくない』と書きながら
「すいません。あの、詳しくは風呂入った後でいいんですけど、後で碧が連絡するって言ってたので、一応軽くだけ説明しますね。菊のことなんですが…」
碧君が連絡する…菊…
それだけで何を意味するのか容易に予想できた
樹君が話してる途中で、服を捲り花を確認する
開花とまではいかないが花笑みの状態だ
本格的に各方面と連絡を取り準備だな
昨日のうちに碧君や父、他の四家の家の者に報告し、家に戻るまでも各方面と連絡を取り合う
柊佳にも、もう少しで帰ると連絡したが返信がなく、少し心配はしたが受験勉強を頑張っているのだろうと思っていた
刀禰家を出る時、おじさんに呼び止められた
何かと思って振り向くと、少し考えて、
「…あ、いや…忙しいだろうけど、あまり無理をしてはいけないよ。落ち着いたら今度はゆっくり顔を見せに来て下さい」
「……はい…失礼します」
何だろう?今までこんな事言われたことなかったのに…
まだ何か言いたそうだったが…
いよいよ儀式が行われるということで不安なのだろうか…
家に戻ると神社の方はまだ混雑しているようだった
手伝った方がいいのだろうが、儀式の準備を優先するよう言われていた
まずは柊佳に声をかけに行く
コンコン
「柊佳、帰ったよ」
いつもなら、すぐにドアを開けて抱き付いてくるのに音沙汰がない
イヤホンでもしながら勉強してんのか?
コンコン
「柊佳?」
寝てんのかな
また後で見に来るか
そう思って立ち去ろうとした時
ガチャ
「柊佳、ごめん、寝てたか?」
そう言いながら振り返ると、柊佳が少し薄暗い部屋の中、俯いたまま立っている
その異様な雰囲気に体が強張る
「柊…佳?」
「おにぃ…ちゃん……」
泣いてる?
震えてる?!
「柊佳?何があった?」
抱き締めてやると、ゆっくりとしがみついてきた
しがみついたまま泣き続け、何も話さない
「柊佳…」
一体いつからこんな状況だったのだろう
昨日バタバタして連絡しなかったことを後悔する
どれだけそうしていただろう
泣き疲れたのか静かになった柊佳をベッドへと連れて行く
「柊佳、とりあえず今日は休もう」
小さく頷き寝息を立て始めた
神社の方へと向かい父を探す
正月も3日の夕方ともなると、さすがに少しは落ち着いてくる
仕事の合間を狙って声をかける
予想はしていたが、案の定父は何も気付いていなかった
そもそも正月中は忙しい上に、昨日からは父の方にも儀式に関する連絡が入ったり、親族に伝えたり、まともに休んでいないだろう
その上柊佳は受験生だ
父と柊佳が顔を合わせる時間なんて、ほとんどなくても不思議とも思わないだろう
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