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何があろうと儀式の準備は進めなければならなかった
なるべく家を離れないように、どんなに遅くなっても家に戻るようにした
柊佳は部屋からほとんど出て来なくなった
なんとか、半ば無理矢理少量の食事を摂らせているが、明らかに衰弱していった
1週間程して、表情も、嫌がる気力すら失った柊佳を病院に連れて行き、すぐに入院となった
「柊佳、点滴してもらったら、体楽になるからな?」
視線も合わない柊佳は、俺の声など聞こえていないようだった
ずっと柊佳の傍に居てやりたい
でも、儀式はもうすぐだ
どんなことがあろうと代々護ってきた大切な儀式
俺の周りの事だけの為に、儀式を遅らせることは出来ない
儀式は完璧に成功させなければいけない
そうでなければ、何代にも渡って、沢山の人達が色んなものを犠牲にしながら護ってきた意味がなくなる
開闢が無事継承されなければ、この世界に何が起こるのか想像も出来ない
それは、どれほどの人に、どれだけの事に影響を及ぼす事になるか
何かを犠牲にしているのは俺だけじゃない
皆が幸せに平和に暮らしていけるように
何よりそれが一番大切な事なのだから
皆が幸せに平和に………
…………皆って…誰だ?
何故、そこに柊佳は含まれない?
何故、そこに母は含まれない?
何故、俺達はそこに含まれない?
俺は……何を護るんだ?
一番大切な人が一番必要な時傍に居ることすら出来ず、一体何を護るんだ?
「…は…ははっ……ははっ……ばっかみてぇ」
碧君の人生も…樹君のこれからも…幸せで平和か?
開闢なんてものを知らない奴等の幸せと平和の為に、何でそれを護る者達が犠牲にならなければない?
今までも、これからも、これが続いていくと?
「…そんなもん、あるからやめられないんだよな?……なくなればいいわけだ…」
柊佳の元に顔を出しながら、俺は完璧に儀式の準備を進めた
誰からも疑われることなく信頼されている自信はある
血で汚すだけで儀式は失敗となるかもしれない
でも、確実に終わりにする為には、開闢ごと消し去りたい
けれども当たり前だが、消す方法や、それに繋がるような記述を見たことがない
樹君の体に入る瞬間の不安定な時に、血で汚しながら開闢ごとというのが最も効果的か…
「柊佳…俺達を不幸にしたもの…壊してくるね…」
「雪兎、お前なんか顔色悪くねぇか?忙しいのはわかるけど、儀式が始まる前に倒れんなよ?」
麻緋の祺瑞家と大禮家は昔から結びつきが強い
俺達も幼い頃は、よくお互いの家を行き来し、2歳上の麻緋には色々教えてもらったこともあり、他の人には気付かれないことも、麻緋には気付かれることが度々ある
さすが鋭いな…
「僕がそんなヘマすると思う?」
「ま、終わった瞬間に倒れてでも成功させるだろうけどな。あんま無理すんなよ」
ぽんっと頭に手を乗せて去って行く
無理…あんただってしてんだろ?
樹君の様子を見に行く
底抜けの楽観主義者でも、さすがに雰囲気に圧倒されているのか緊張気味だ
緊張をほぐす為だと言うと疑うことなく護符を飲み込んでくれた
万が一の事を考えて、俺の血を混ぜた物で書いた護符で刀を覆い、同じ物を樹君の体内に忍ばせる
あとは計画通りに儀式を進めるだけだ
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