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~碧~
何も…出来なかった
俺が護るべき人
その人の傍に居たのに
俺は何も出来なかった
ただ目の前で血塗れになって崩れていくのを見ていた…
俺は祗茉家の次男として生まれた
家にはいつも沢山の人が来ていた
いつも皆忙しそうにしていた
俺の7歳上には藍吏という兄がいた
俺が3歳になると兄が色んな事を教え始めた
礼儀作法から始まり、一般的な神社について、祗茉という家について、その他諸々…
そして、体が強くなきゃダメなんだぞ、と言って、一緒に走ったり、家の中でも一緒に筋トレしたり…
とにかく3歳からの3年間は、保育園以外は家での兄との思い出しかない
大変な事もあったが、兄がいつも楽しそうで、だから俺も楽しかった
俺がもう少しで6歳になる頃、兄には現れなかった祗茉家の色が、俺の瞳に表れた
いつも笑顔の兄が、唯一その時だけ、泣きそうな顔で、
「碧…」
ただそう言って、しばらくの間優しく抱き締めてくれた
兄が倒れたのは、それから間もなくだった
学校で体育の授業中倒れた兄は、救急車で病院へ運ばれた
おそらく生まれつきあった頭の血管のこぶのような物が、破裂したのだろうとのことだ
はっきりとは覚えていないが、1ヶ月も経たずに兄は亡くなった
倒れてから1度も目を覚ますことはなかった
こんなに突然、こんなに何も出来ないまま、人は死んでいくんだと思った
小学校に上がってからは両親や親戚に色々教わった
祗茉家の護り人だけが知るべき事も父から教わった
両親も俺も、ただひたすらに、やるべき事をやり続けた
学校ではそれなりに友達も出来た
両親もちゃんと笑顔で接客していた
けれども、気付くと家の中で笑っているのは、写真の中の兄だけになっていた
家族仲が悪いわけではない
家族で協力し合えている
でも、兄が居た頃の家とは明らかに違っていた
中学からは、俺が護るべき対象である隠逸花の持ち主、刀禰 樹君と同じ中学に通いながら傍で護衛し、変化があれば報告するという役目が同い年である俺に与えられた
友達は居たが、帰宅後に友達と遊ぶという事もない為、離れて泣く位仲のいい友達は居なかった
家を離れ、知らない土地での生活は不安もあったが、兄の居ない家を離れる寂しさより、今後長い付き合いになるだろう人達と、少しでも早く関係を築いておきたい気持ちの方が大きかった
小学校を卒業すると早々に寮への引っ越しやら、転校手続きやら、刀禰家への挨拶やらして、母さんは1週間程で戻って行った
これから多くの時間を共にすることになる樹君は、想像以上に普通の子だった
そして、想像以上に楽観的だった
護り人と違って、隠逸花は神職者の家系ではあるものの、代々受け継がれるわけではないので、それに関する知識も少ない
知らない分楽観的でいられるのかもしれないが、未知の事への不安も計り知れないとも思うが、まるでその不安が感じられなかった
「祗茉 碧です。これからよろしくお願いします」
「刀禰 樹。よろしく!なあ、これからずっと一緒に居るんだろ?碧でいい?俺の事も樹でいいからさ」
同級生とはいえ、どういう感じで接するべきか考えてたが、かなりフレンドリーでいいらしい
おじさんもおばさんも、遠慮しなくてもいい雰囲気を作ってくれた
刀禰の家全体が、神社全体が、そんな感じがした
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