episode1

1/11
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

episode1

〜七月七日 『一日目』〜 「瑞姫(みずき)!起きなさい!」 そんな母の声にうんざりしながら体を起こした。眠い目を擦って目覚まし時計を見るとなんと朝の八時。うわ、死んだかも。高校生活最初の遅刻がまさか自分の誕生日になるなんて。 いやいや、そうはさせるか! 私は走って洗面所へ行き、顔を洗う。少し冷たい水が心地いい。そして自室に戻り制服に着替え、カバンに今日の授業の用意をぶち込む。というか今日の授業とか悠長なことを言ってる暇なんてないから、とりあえず床に散らばってる教科書を全部カバンの中に入れ込んだ。 「朝食は?」 「あ、食パンもらってく!」 リビングに降りるとすぐ、母が食パンを手渡してきた。おお、これは勝ちかも。それを鷲掴みにして家を飛び出す。 それにしても、まさかのリアルに食パン咥えながらの登校が実現するとは。 でも、本当にみんな一回やってみてほしい、と私は言いたい。咥えながら走るというのは結構至難の技なのだ。というか私も今日初めて知った。 そんな新しいことを知れたそんな朝……案外いい一日の幕開けなのかもしれない。 そう、私は他人から馬鹿にされるほどのプラス思考の持ち主である。 昔からそうだったらしい。運動会の日に雨が降って延期になれば、「今日は早く走れる気がしなかったからちょうど良かった」と笑っていたらしいし、遠足でおやつを地面に落としても「飢えてる虫とか鳥の命を救えた!」みたいな意味不明なことを言っていたらしいし……。 挙げ句の果てに、小学校五年生の時自転車で転んで骨折した時も「普段は使えない学校のエレベーター使えてラッキーじゃん!」とか思って……。 周りの人は笑っていたし、ここまでいくともはや自分でも馬鹿だと思う。 でも、こっちの方が断然人生楽しめる。少なくとも私は今日までそんな考えで生きてきた。 バス停に着く頃には、ちゃんと食パンは食べ切っていた。ただ、飲み物がなく口がパサパサだったので自販機で水を買う。百二十円の支出により、全財産が五十五円になった。これじゃ何も買えない……いや、駄菓子が買える! まあ、これも無駄金使わなくて済むってことで。 バスが滑り込んできた。相変わらず人が多い。私の前にも結構並んでいて、乗れるかどうかは正直わからない。でもこれに乗らないと遅刻確定だ。カバンを前に抱えてバスに乗り込む。私が乗ったところでちょうど限界だった。目と鼻の先でドアが閉まった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!