死にたがりのシャッター

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 内装も額縁の配置もセンスが良くて、雰囲気のある店なのに、彼が撮ったという写真は全く琴線に触れない、凡庸な風景ばかりだった。  モノクロではないが、全体的に色彩に欠けてピントもぼやけている。そしてやたらと、ローアングルな写真が多い。そういう画角にこだわって、売りにしている写真家もいるだろうが、彼の写真からは持ち味というか、どうしてもこれを撮りたいという熱意とも呼べる魅力を感じられなかった。 「これを売っているの?」 「そう。気に入ったものがあったら、声をかけて」  金を払ってまで買いたいとは、とても思えないが……真希は飾られた写真を見るでもなく見て歩いた。レイが、その後についてくる。  何だか居心地が悪くて、興味のある振りだけでもしておこうと、真希は適当な一枚の前で足を止めた。 「あなたの記憶、か」  振り返ると、レイは寂しげな微笑みで写真を眺めていた。 「そうだよ。これは、初めて行った海。波の音と潮の臭いがすごくて、俺は全然楽しくなかった。でも、一緒に行った人が分けてくれたアイスが、すごく美味しくてさ。海も悪くないなって思ったんだ」  聞いてもいないのに、レイは隣の写真についても解説……いや、思い出話を始めた。ひとしきり語った後で、彼はこの店を開いたわけを真希に聞かせてくれた。
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