死にたがりのシャッター

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「記憶はさ、いつか消えるだろ? 薄れていくし、……死んだりしたら、何もかも無くなるよね。だけどここでお客さんに話したらさ、全部じゃなくても、俺の記憶は引き継がれると思うんだ」  写真を売るよりも、思い出話を聞かせる方が目的だとレイははにかむ。 「それなら、お店なんてやらなくても、人の目につく方法なんていくらでもあるんじゃ」  真希がスマートフォンを手にして見せるが、レイは首を振った。 「ここがいいんだ」 「お客さんなんて……滅多に来なそうなのに」 「今日、君が来てくれた」  レイは初めてにっこり笑った。山中に不釣り合いな作り物のように綺麗な彼の、ごくごく自然な笑顔だ。整った顔立ちに絆されかけて、真希はぎりぎりで踏み止まった。 (法外な値段で、何かを掴ませる気かもしれないし)  身構える真希を追い越して、レイは奥の壁に作り付けられたカウンターテーブルまで移動すると、おいでと手招きした。 「俺のとっておき。共有してよ」  ほら来た、と真希は鼻で笑った。騙されてやるつもりはないが、ここまで来たら何か気にもなるので、話くらいは聞くことにした。 (どうせ、さよならするのだし)  真希を動かすのは、後ろ向きな積極性だ。向こう側へ踏み出すのを、彼女はまだ諦めていない。
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