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「あなたも、この頃から詩音を知っていたの? わたしたちしか、いないと思っていた」
「まぁ、散歩しながら……たまに」
レイは言葉を濁す。
「音楽の良さは俺にはわからないけど、楽しそうに歌う彼女が好きだったよ。だから……あんなことになって残念だ」
真希はぎゅっと唇を結んだ。
詩音は、シンガーソングライターだ。デビュー曲が人気バラエティ番組の主題歌に起用されるや一躍、時の人となった真希の幼馴染。幼い頃からの夢を叶えた彼女を、真希は一番近くで見守ってきたと自負している。まだ視聴者ゼロの動画配信だった時代から、初のワンマンライブまで、真希はいつだって詩音の隣にいた。
彼女の華々しい人生に翳りが差したのは、SNSに投稿した一枚の画像がきっかけだった。ちらっと映り込んだものが、大人気の男性アイドルの私物と酷似していて……、生憎たまたま音楽番組で共演なんかもしていたものだから、たちまち匂わせだなんだと叩かれた。人気者にはつきものの、口さがない嫉妬だった。
だがそれが詩音にとっては、見ない振り聞かない振りでやり過ごせる、ただの悪口にはならなかった。
目に刺さり、耳を切り裂き、胸を抉る……ーー凶器でしかなかった。そして彼女は一昨年、自らの命を絶ったのだ。
夢に敗れて、と当時のSNSは数日の間沸いて、別の誰かのスキャンダルが持ち上がるや、ふつり……と彼女の名前は立ち消えた。
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