死にたがりのシャッター

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「今度は彼女を殺さないで」  レイに差し出されたポケットアルバムを、涙に濡れた手で真希は受け取った。いくらか問うても、彼は首を横に振るのみだ。 「……もしかして初めから、わたしにこれを見せたかっただけなの? 本当は、何者?」  涙でぼやけた真希の目に、レイは微笑んでいるようにも泣いているようにも見えた。彼は問いには答えず、ロディを撫でた。  それから少しして真希の涙も止まると、レイはシャッターを開けた。深い闇が、冷たい夜気と一緒に店内に這い入ってくる。  一瞬、怯んだ真希の背中をレイの温かな声が押した。 「もう、帰れるね」 「そうね……ありがとう。記憶(写真)……大切にする」 「うん。俺も、忘れない。彼女のことも」  君のこともーーと、聞こえた気がしたが、世界を隔てるように引き下ろされるシャッターに、レイの声も明かりももう真希には届かないものになった。  シャッターを隔てた距離にお互いいるはずなのに、もうまるで気配を感じない。おまけに、店を出た途端にスマートフォンが鳴り出して、それで初めて家族からたくさんの着信があったことに気が付いた。本当に、狐につままれたような心地だ。 「もしもし、お姉ちゃん。うん、真希だよ。うん……ごめん。わたし、お姉ちゃんたちに、同じ思いをさせるところだった……うん、帰るよ。大丈夫、ロディがいるから」  名前を呼ばれて、ロディは嬉しそうに返事をする。  電話を切り、冷んやりしたシートに身を沈め、エンジンが暖まるのを少し待った。 「馬鹿な飼い主でごめんね、ロディ。帰ろう。五時間のドライブにおすすめの曲はやっぱり、これよね」  一昨年からずっと無音で走ってきた。真希は久しぶりにオーディオ画面を操作する。  伸びやかで楽しい歌声に、鮮やかな記憶を乗せて、真希の愛車は帰路を辿った。
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