死にたがりのシャッター

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「──初めての接客は、うまくいったようですね。染谷レイさん。いいえ……」  アトリエ風の店内に、どこからともなく女が現れた。菫色のワンピースに身を包み、肩にかかった黒髪は緩いウェーブがかかっている。歳の頃はレイより少し若めの二十代前半。しかしもっと上とも思える堂々たる風格と、色気を滲ませて、女は青年に微笑みかけた。 「多川ロディさん」  彼女の細くしなやかな手が、レイの頭を一撫でするや、青年の体はみるみる縮んで、豊かな被毛のゴールデンレトリバーに変わった。  ロディはふさふさした尻尾を、静かに揺らして女を見上げた。 「蝶さん、ありがとう。おかげで願いが叶った。真希は明日も生きていけるよ」 「わたしは店舗を貸しただけ。望みを叶えたのは、あなたの真希さんを想う気持ちと、行動力です」 「店があったって、この姿じゃ何もできなかった。レイを店主にすることを考えてくれたのは、蝶さんだ」 「それもわたしの力ではなく、あちらの胡桃さんのお店の出張サービスです」  またいつの間にか現れた女の子が、ロディに手を振っている。アンティークドールのような見た目の彼女は、コスプレショップを開いている。  真希が初対面で好印象を抱いてくれて、話を信じてもらえるような青年像を見事に作り上げたのがこの胡桃だ。客を見事に変身させる技術が、彼女のだ。  胡桃もロディと同じ、「蝶」と契約してテナントを借りた者だ。  テナント料は、借主の「一生のお願い」。  多川ロディは、一生のお願いを使って、多川真希に生きる目的を与える店を作った。彼の(カメラ)で切り取った記憶(写真)を飾る、アトリエ風の店を──。
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