死にたがりのシャッター

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「もっとたくさん、素敵な写真があるのに。見せなくてよかったんですか?」  蝶が言うと、額縁の写真が裏を返すように入れ替わる。海辺で、ソフトクリーム片手に真希が笑っている。 「俺がロディだって分かったら、真希は辛いよ」  のロディがいるんだから、との……真希が逝ってしまった世界のロディは尻尾を萎れさせた。  の今日。  真希が「行くね」とボールを投げて、大喜びで茂みに駆け込んだ後、が戻ると真希は動かなくなっていた。一晩、山の中で過ごした後、真希の姉に引き取られた。  家族の誰も口にしなかったが、真希に何があったのか理解するだけの知能がロディにはあった。  大好きな真希を忘れないように思い出す度に、その真希を死なせたのが自分だと打ちのめされる。人間は自殺できていいな、と思うこともあった。飼い主を殺したハーネスを背負って生きるのは苦痛で、死にたい、死にたいとロディは鳴いた。  毎年の命日に、この山に姉家族と訪れ、何度目だろうか。ロディは、どうしても「あの日」を変えたくなった。老い先短い命でも、その全てを賭けてもいい。真希に生きていてほしかった。  すると木々の中に埋もれた、『テナント募集中。商談はかくりよにて。』という看板がやたらと眩しく映って、気が付いたら「蝶」と契約を結んでいたのだった。 「いくら、かくりよの力をもってしても、既に起きたことは変えられません。たとえこの世界の真希さんを救っても、あなたの住む世界の事実が覆ることはありません。それは忘れていませんね?」 「もちろん。真希が生きていて、俺もそばにいられる世界が、どこかで確かに存在しているって思うだけで、残りの時間を過ごしていけるよ」 「そうですか。それではこれにて、契約満了です。初めの契約通り、一生のお願いを支払われたからには、もう二度と神のご加護は受けられません。残りの人生、どうぞ気を付けてお過ごしください」  あるべき世界へと、薄れ消えていくロディに蝶は丁重に頭を下げた。
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