死にたがりのシャッター

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 真希の愛犬ロディが、見渡す限りの大自然に鼻をひくつかせる。サービスエリアで休憩は挟みつつも、五時間近く後部座席のシートでお利口にしていた彼は、濃い緑の匂いに大喜びだ。大きな体躯が飛び跳ね、黄金の長毛が豊かに揺れる。  前日にトリミングに行って、今朝も丁寧にブラッシングした、自慢の毛並みだ。それなのにどうしてか、真希の目にはロディの被毛がいつもよりくすんで見えた。 (そりゃ、そうか)  時刻は十六時三十分。秋というにはまだ早いが、夏と呼ぶには涼しい日も増えてきたこの頃。真夏に比べたら、日はぐっと短くなった。  鬱蒼とした木々が辺りを取り囲む駐車場は、センサーライトが既に夜の訪れを告げている。  人気のない薄闇の不気味さに、本能的な恐怖を抱き、真希は辺りを窺った。  駐車場には真希の愛車以外に、セダンが一台停まっているが……、運転手は近くにいなさそうだ。苔に錆……管理者からの警告だろうか、移動を求める貼り紙がされていて、明らかに長期間放置されていることを窺わせる様相だ。  無料駐車場だからか、管理事務所のようなものは見当たらない。シャッターの下りた倉庫のようなものが、木々に覆われるようにぽつんと一つきりあるが、これもまた放置されているような陰気さを醸し出している。 (隠れ自殺の名所にお似合いの雰囲気ね)  真希は目的を思い出すと、ロディを連れて、山に分け入った。
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