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余命宣告を受けた翌日。
一人家に残していくのが不安で会社を休もうとした憲一を、妻の江美子は笑顔で送り出した。
江美子はとにかくよく笑う女だ。笑子、という当て字でもよかったのではないかと、付き合い始めの頃から、憲一もよくからかったものだ。
管理職に就いて仕事がきつかった時、母が急逝して悲しみに暮れた時……。江美子の笑顔に何度も背中を押され、時には泣き場所を与えてもらった。
今だって、自分が一番ショックを受けているに違いないのに、憲一を励ますように笑うのだ。
その笑顔が、来年はいないのかもしれないなんて──。
憲一は、憎いほど雲のない空を見上げて歩いた。そうしていないと、雨が降りそうだったからだ。
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