余韻ある余生

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 清潔感のあるマオカラーの白シャツに、菫色のフレアスカートが上品な彼女は、一見すると女子大生のようだ。しかし実際にキャンパスいたとしたら、拭いようのない違和感──圧倒されるとも言える存在感が滲み出ている。 「わたしは蝶と申します。このかくりよにて、お客様と店舗を結びつける役を担っております」  蝶が貸すのは「願いを叶えるための店」。お代は借主の「一生のお願い」だという。  夢か何かだと憲一は馬鹿馬鹿しく思う。だがその一方で、には憲一を信用させるだけの風格があった。  この人しか信じられない。この人を信じるしかない。  なぜかそう強く、頭に響く。 「さあ、憲一さん。あなたの一生のお願いは?」 「俺の、一生のお願い、は……」  さあ……と、蝶の奇しい声に誘われて、憲一の胸に沈んだ願いが、するりと喉を滑り出た。 「江美子を、江美子のまま逝かせてやりたい」  くすりと、蝶が微笑う後ろで、猫が大きなあくびをした。
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