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気付けば憲一は、硝子張りの白い店舗の中にいて、契約書が綴られたファイルを手にしていた。
かくりよにて貸し出されたテナントでは、どんな店でも開ける。一生に一度の願いを叶えるために、借主を手助けしてくれる不思議な力が働き、それが店の売りとなる。
契約期間は、一生のお願いを叶えるまで。もしその間に憲一に何かあって、寿命が尽きるようなことがあっても、契約は終了だ。
借主の都合で途中破棄することもできるが、一度支払った代価── 一生のお願いの払い戻しはきかない。
一生のお願い、は神への最大の我儘だ。我儘を通した人間に、神は二度と振り向いてはくれない。
蝶と契約したが最後──。借主は神の加護の一切を手放すのだ。
「はは……ははは」
契約書を手に、憲一は呆れて笑いが止まらなくなった。
なんて馬鹿げた契約か。
さすがの江美子も怒るんじゃないか。いや──、江美子なら腹を抱えて笑ってくれるような予感がした。
なぜだか、すべてがうまくいく気がして、早く江美子に話したくてたまらない。憲一は帰路を急いだ。
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