余韻ある余生

8/11

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
 ◆ ◇ ◆  憲一の去った部屋で、猫が口を開いた。 「あーあ、蝶ってば意地が悪いよね。どうして教えてやらないのさ。一生のお願いで、奥さんの病気を治せばいいじゃないかって」  にゃん、と可愛い声はしない。きかなそうな少年の声で、猫は人語を介す。  悠然と脚を組み、蝶は薄く嗤った。 「願いの価値は人それぞれ異なるもの。憲一さんにとって、最も情念が働いた願いがだったというだけのこと。わたしが口を挟むのは簡単ですが、儲けが減って困るのは貴方ではないのですか。クロさん」  憲一の願いを小箱に収め、「長」の机に置いた。クロは背もたれから机に飛び移って、ぺろりと舌舐めずりひとつ──。 「今月も極上の情念が集まったねぇ」  ◆ ◇ ◆
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加