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◆ ◇ ◆
憲一の去った部屋で、猫が口を開いた。
「あーあ、蝶ってば意地が悪いよね。どうして教えてやらないのさ。一生のお願いで、奥さんの病気を治せばいいじゃないかって」
にゃん、と可愛い声はしない。きかなそうな少年の声で、猫は人語を介す。
悠然と脚を組み、蝶は薄く嗤った。
「願いの価値は人それぞれ異なるもの。憲一さんにとって、最も情念が働いた願いがこれだったというだけのこと。わたしが口を挟むのは簡単ですが、儲けが減って困るのは貴方ではないのですか。クロさん」
憲一の願いを小箱に収め、「長」の机に置いた。クロは背もたれから机に飛び移って、ぺろりと舌舐めずりひとつ──。
「今月も極上の情念が集まったねぇ」
◆ ◇ ◆
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