余韻ある余生

10/11

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
「結構人気あったのに、お店閉めちゃって……勿体無い」  娘が嘆く言葉に、憲一は物憂げに微笑んで、江美子がいなくてはやっていけないからと返す。  墓前に手をあわせ、家族の近況を話したり、江美子のいない寂しさを、最後の穏やかな一年間を振り返りながら埋めていることを伝える。  来世でも隣で笑っていてほしいとは、照れくさくて口にできず、胸にしまってはにかんだ。  江美子から笑顔を受け継いだように、よく笑うようになった憲一の横顔を見て、子供たちは肩をすくめる。 「親父も丸くなったよなぁ。昔は母さんと喧嘩すると決まって言ってたのに」 「いつも笑っていられる、お前のように気楽じゃないんだ……のこと? 言ってた、言ってた」 「母さんも、何言ったって無駄だからもう笑うしかない、ってな」  そんな思い出がある子供たちからしたら、二人が一緒に店を開いて、仲良く最後の時を過ごしていただなんて、今でも信じられない思いだ。 「夫婦って、わからないな」  新婚の弟の背中を、頑張れと兄は叩いた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加