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葉が積もり、湿気た足元はふやふやと柔らかい。時折り、踏みしめた小枝の折れる音がやけに木霊する。
今から何もかも手放すのだから、怖いなんて感じる必要もないのに、これ以上、奥に進むのが恐ろしくて真希は足を止めた。
ロディはもっと歩きたいようで、首を傾げている。それで真希はロディを頼りに、濃い闇の向こうへと手を引かれた。
少しの間に、本当に何も見えなくなってきて、真希はジーンズのポケットからスマートフォンを取り出した。
ライトをぐるりと巡らすも、もう右も左も分からない。この文明の利器を用いれば、容易に帰ることも可能だろうが、今はただ手元を照らす明かりでいてくれれば真希には十分だ。
(ここにしよう)
ちょうどよさそうな木を見つけて、真希は表情も変えずに準備を始めた。
細身の真希の胴と同じくらいの幹に、括るようにロディのリードを通す。幹を抱くように交差してできた輪の中に、真希は己の頭を通すと、木に背を預けて腰を下ろした。
ボールを握った手が震えている。ロディお気に入りのテニスボールだ。
彼の得意技はボールキャッチ。それと、遠く遠くに投げたボールを諦めずに、どこまでも追いかけていく遊びも好きだ。
ロディが準備万端、早く投げてと尻尾を揺らして待っている。
これを投げたら、ロディは一気に走り出す。そうしたら、リードが真希の首を締め上げてくれる。
「……ごめんね、ロディ」
真希は自殺の装置に愛犬を使う、最低最悪の飼い主だ。
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