蝶の店

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 小さなお客様は、鵜之沢(うのさわ)結萌(ゆめ)と名乗った。蝶に探して欲しいものがあると言う。  どんなものでも見つけられるという噂を聞いてか、それとも想いが店へ誘うのか、行方がわからなくなった大切なものを求めてやって来る客は多い。かくりよのテナントの斡旋と、己の店の切り盛りで蝶は案外忙しい日々を送っている。  それなのに退屈に感じるのは、この店ののせいだ。  蝶の店は、人でも物でもたちどころに見つけられるのが売りだ。探偵のように地道な調査は必要ない。生死、状態に関わらず、その行方を簡単に言い当てることができるのだ。  ちょっとばかり面倒なのは、どうやって見つけたのか、依頼主と失せ物との空白の時間に何があったのか訊かれがちなことである。  行方を探すことだけが仕事だと蝶が微笑めば、客はぴたりと黙り、満足して帰る。  このお決まりの単純明快な作業が、蝶にはしばしば退屈だった。飽きていた、と言ってもいい。  たどたどしくも懸命に、失せ物への想いを語る結萌を見て、蝶は気まぐれを起こした。  大切にされてきたはずのものがどういう経緯で失せ物になったのか、その行方を店の力に頼らず、己の手で探してみようと蝶は腰を上げる。 「結萌さんの真摯なお気持ちに、わたしも真摯にお応えいたしましょう」  心強い蝶の言葉に、小さなお客様の顔がぱっと輝く。眩しい笑顔に目を細めるように、蝶も笑んだ──薄く、奇しげに。  真摯に……など、嘘もいいところ。蝶にとっては、退屈しのぎの一興に過ぎない。
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