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結萌はペットのハムスター、ムースちゃんを探してほしいと訴えた。
ジャンガリアンハムスターの女の子で、黒胡麻ムースの色に似た背中が可愛いのだと、身振り手振りを交えながら語りつつ、目には涙が溜まり始めた。
「もういなくなって一週間なんです。家の中は狭い隙間も天井裏も、床下も……全部探したんです。だけど見つからないの、ムーちゃん……どこに行っちゃったの」
「それは心配ですね。よろしければ、ムースさんがいなくなった日のことを、この蝶に教えていただけますか?」
「はい、先週の日曜日……」
結萌はその日、新学年に上がるお祝いに、親友の須崎絵麻と、互いの両親も一緒にショッピングモールへ出かけた。
「家を出る時に、リビングでムーちゃんに行ってきますをしました。十時ごろです」
「お家にはムースさんがお一人で?」
「はい、そうです」
「……少し歩きながらお話ししましょうか」
蝶は笑顔で、硝子戸を引き開ける。
結萌が敷居を跨ぎ、表へ足を踏み出した途端、喧騒がその身を包んだ。がやがやと賑々しい人々の声に、ありふれた音楽、館内アナウンスが入り乱れる。
気付いたら結萌は、ショッピングモールの入り口に立っていた。後ろを振り返っても、さっきまでいた古めかしい店の姿はない。考えてみたら、どうやってあの店に辿り着いたのかもはっきりと覚えていない。
それなのに蝶が隣でにっこりと微笑むので、すべての不思議が結果に落とし込まれていき、深く考えることもなくこれでいいのだと納得できてしまった。
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