蝶の店

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 進級祝いに、結萌は新しいスニーカーを買ってもらった。靴紐を自分で結べるようになったのが嬉しくて、得意になって、まだ春休みだが履き始めた。 「絵麻ちゃんも靴を買ってもらうはずだったんだけど、新しいリュックと迷って決められなかったんですよ」 「ええ、こちらは魅力的な物がたくさん溢れていて、目移りしてしまいますものね」  それから結萌たちは、フードコートで早めのお昼を食べ、大人たちが歓談に夢中になっている間は、同じフロアのカプセルトイコーナーで遊んでいたという。 「これ、この動物チャーム。絵麻ちゃんとお揃いでガチャガチャしたんです」  筐体のディスプレイに描かれた灰色のハムスターを、結萌は指差した。 「この子、ムーちゃんに似てるから、どうしても欲しくて。でもわたしはこっちのウサちゃんが出ちゃって、がっかりしていたらハムちゃんを当てた絵麻ちゃんが交換してくれたんです」 「絵麻さんは優しい方なんですね」 「はい! とっても仲良しなんです!」  蝶は百円硬貨を五枚投入し、ハンドルを回した。ごろりと転がり出てきた少し大きめのカプセルの中には、真っ黒な猫のアクリルチャームが入っていた。 「あら、クロさんにそっくり」 「わあ、お姉さん凄い! シークレット! レアだ!」 「まあまあ、レアですか。クロさんがレアとは……ふふふ」  玩具のチャームを、ジーンズのベルトループに付けて堂々と歩く蝶が、結萌の目にはとても格好良く映った。
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