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「ショッピングモールを出た後は、お家に帰ってみんなでお茶をしたり、ゲームをして遊びました。ムーちゃんも一緒におやつを食べました」
またしても、結萌の視界が一転し、どういうわけか自宅リビングに帰ってきていた。まるで記憶の中を旅しているような感覚を覚えたが、空っぽのケージが現在進行形の現実だと語りかけてくる。
「ムースさんをケージから出すことはあったのですか?」
「はい、絵麻ちゃんのママが触らせてって言ったから、このハムちゃんボールに入れて、遊んでもらいました。少しして、ケージに戻しました」
回すもののいない透明なボールと回し車が、いかにも寂しい。結萌はケージの隙間から指を差し入れ、カラカラと車を回した。反時計回りに廻る車を見つめて、結萌は戻せない時を振り返る。
「外が暗くなってきて、みんなで夕ごはんも食べに行こうってなりました。ムーちゃんに、もう一回行ってきますって言って、車に乗りました」
食事の後は、そのまま須崎宅まで送っていく流れになっていたので、絵麻の母は忘れ物がないか念入りに確認していたという。
ふふっと結萌は思い出し笑いをした。
「絵麻ちゃんったら、大事なガチャガチャを忘れるし、うちのママなんてトイレに行きたいって言い出して! 二人で家に戻りました」
今度こそ忘れないようにと、ポケットにカプセルを捩じ込んで絵麻は車に戻ったそうだ。落としそうで危ないよ、と結萌が助言すると、慌ててリュックにしまい直したという。
その後、結萌の母が戸締りをし直して、いよいよ車は発進した。
ファミリーレストランで食事をし、須崎宅までの道中で結萌も絵麻も眠ってしまったという。
両親の話では帰宅したのは二十一時頃だったそうだ。何もなければそのまま朝まで寝てしまったのだろうが、結萌は母親の慌てふためく声で起こされた。
「ケージが開いてて……ムーちゃんがいなくなってたんです」
「最後にムースさんの姿をご覧になったのは、行ってきますのご挨拶をされた結萌さんですか?」
「ううん。忘れ物を取りに行った時に、絵麻ちゃんもムーちゃんに行ってきますしてきたって言ってたから、絵麻ちゃんが最後だと思います。……あ、ママも戸締りをする時にカラカラが回っている音を聞いたって言っていました」
「では、夕方まではムースさんはケージにいたのですね」
蝶はふむ、と小さく頷き、いくつか結萌に尋ねると、後のことは任せろと言うように、鵜之沢家を後にした。
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