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その足で、結萌から教えてもらった住所に向かう。須崎家を確認すると、蝶はそのまま近所をぶらついた。
蝶が初めて足を止めたのは、ゴミ集積所の前だ。人目を憚ることもなく、ゴミステーションを開いて、中を覗き見る。
可燃ゴミは明日が収集日と記されてあるが、既に市の指定袋がいくつか投棄されていた。
うっすらと透ける中身に目を凝らしてみたが、そこに探しものの手掛かりは存在しなかった。
だが蝶には少しの焦りもない。悠然とスマートフォンを手にすると、呼び出し音に耳を傾けた。
「もしもし、万里さん。お世話になっております、蝶です。近々……早ければ明日、そちらにお伺いいたします。ええ、客として。ちょっと難しい注文をさせていただくかもしれませんが、よろしくお願いしますね」
ポケットにスマートフォンをしまおうとして、ベルトループに付けた黒猫のチャームに手が触れた。外して日に透かして見れば、キラキラのホログラムがいかにもちゃちなレアっぽい。
蝶は、サコッシュにしまっておいたカプセルを卵を割るように開き、チャームを元のように殻に閉じ込めた。
手に余るカプセルを、プラスチックゴミのコンテナに放り投げ、蝶はゴミステーションの蓋を下ろす。
安全性に配慮した構造だからだろう、蓋は自重で一気に閉まるのではなく、躊躇うように落ちていく。秘密を閉じ込めるように重々しく、後ろめたさを残すようにゆっくりと──。
「明日はどんなご事情を呑み込まれるのでしょう」
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