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明くる朝、蝶の前を栗色のポニーテールを揺らしながら、女の子がゴミ袋片手に横切った。
モノトーンの、その歳にしては少し大人びたリュックには、桃色のウサギのアクリルチャームがぶら下がっている。
「失礼。須崎絵麻さんですね? 鵜之沢結萌さんのお友達の」
ポニーテールが動きを止めた。咄嗟に立ち止まってしまったが、見知らぬ人間に話しかけられ警戒を募らせる様子が、目許に滲む。
「これから結萌さんの所へ行かれるのでしょう? その前にお家のお手伝いですか、偉いですね」
蝶の視線から隠すように、絵麻はゴミ袋を後ろ手に持ち直した。
「申し遅れました。わたし、結萌さんの家庭教師をしているーーーーと申します」
ノイズがかかって聞き取れない名のはずだが、絵麻はそれを少しも不審に思っていない。彼女にとって親しみやすい名、覚えやすい名に聞こえているに違いない。
「結萌さんに、進級祝いに何が欲しいか尋ねたら、お友達の絵麻さんと同じピンクのリュックが欲しいと仰っていたので、見せてもらおうと思ったのですが……。今日は別のものでお出掛けなのですね」
「昨日、パパに新しいのを買ってもらったから」
「そうですか。絵麻さんは靴ではなく、リュックにお心が決まったのですね。……それはなぜでしょう?」
絵麻にしたら、いろいろ知っているふうの蝶の方こそなぜな存在なのに、口が勝手に動いていた。
「前のリュックは汚れちゃって」
「あらまあ、それは残念でしたね。しかし、捨てなければならないほど汚れるとは、どういうことでしょう?」
「えっ」
絵麻はゴミ袋を握りしめた。一生懸命、小さな体の後ろに隠すが、薄緑色のビニールを透かして、可愛いリュックが見えている。
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