蝶の店

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 ファスナーを開いた瞬間、鼻をつく腐臭が解き放たれた。ゴミ袋に詰められた生ゴミでさえ、そこまで臭いを出していない。  蝶は表情一つ変えず、何なら薄笑みを浮かべたまま中を検め、昨日捨てたのと同じカプセルをリュックの底に見つけた。  ハンカチで包んで取り上げたそれを日に透かす。  糞尿に塗れ、腐敗した──がそこにはいた。 「ご依頼の失せ物、確認いたしました」  蝶は結萌の依頼を難なく完了した。大変なのはこの後だ。  失せ物の行方を、依頼主に報告しなければならない。対象が命あるもので、見つけた時点で既に亡くなっている事案ほど、厄介だと蝶は思う。 (特に、結萌さんのように幼く純粋な方には、真実が毒となることもございましょうし……)  泣き出した絵麻をちらりと見遣る。 (せっかくのご友情を壊すのも、偲びない)  蝶は用意してきたジッパー袋にカプセルをしまい、須崎家のゴミを片すと、絵麻の手を引いて歩き出した。  蝶は自分の店のである、どんなものでもたちどころに探し当てる能力を使ってはいないが、かくりよでの生業──人間の情念を集めやすくするために、から授かった、ことを円滑に進める魅了の力はここぞとばかりに使わせてもらっている。  ──知らない人についていってはいけません。  絵麻の頭で、小さい頃からの両親の教えが警鐘を鳴らしている。それなのに、それを上塗りする蝶の微笑みが絵麻の心を占めていき、足も口も、蝶の意のままに動き始めた。
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