21人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
絵麻の話を、一ミリも狂いのない微笑みで、頷きながら蝶は聞く。
駅の方へひたすら歩いていた蝶はやがて、一軒の店の前で足を止めた。
メルヘンチックな可愛らしい外観で、入り口に置かれた犬と猫の置き物は、接待係さながらのお辞儀で中へと招いている。
蝶が扉を開くと、ドアベルが優しい音を転がした。
中はほんわりと暖かく、犬や猫を初めに、鳥や魚に至るまで、たくさんの生き物たちが透明な筺の中から絵麻を見つめていた。
「ペットショップ?」
「いいえ、ここは……」
「──縁結びの場、だよ」
店の奥から、エプロン姿の男がのっそりと現れた。まともに立ったらぶつかってしまうペンダントライトを、背中を丸めてやり過ごし、彼は二人のそばまでやって来た。
「様々な事情で保護された動物たちを、新しい家族のもとへ送り出すための店です」
長身をますます折り畳んで、蝶にお辞儀をする。
「いらっしゃい、蝶さん。久しぶり」
「ご無沙汰しております。ご商売が順調なようで何よりです。さて、万里さん。昨日お話した通り、客として参りました。いらっしゃいますか? この子なんですけれど」
蝶はなんの躊躇いもなく、ジッパー袋を彼に手渡した。
重たい前髪の下で、彼の眉根がぐっと寄せられた。
「これはまた……可哀想に。ジャンガリアンの、灰色の、女の子だね……いますよ」
「そうですか。実はこういうわけでして──」
蝶はことのあらましを万里に聞かせた。その間、絵麻は居た堪れない思いで、足元に目を泳がせていた。
最初のコメントを投稿しよう!