蝶の店

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 絵麻の話を、一ミリも狂いのない微笑みで、頷きながら蝶は聞く。  駅の方へひたすら歩いていた蝶はやがて、一軒の店の前で足を止めた。  メルヘンチックな可愛らしい外観で、入り口に置かれた犬と猫の置き物は、接待係さながらのお辞儀で中へと招いている。  蝶が扉を開くと、ドアベルが優しい音を転がした。  中はほんわりと暖かく、犬や猫を初めに、鳥や魚に至るまで、たくさんの生き物たちが透明な筺の中から絵麻を見つめていた。 「ペットショップ?」 「いいえ、ここは……」 「──縁結びの場、だよ」  店の奥から、エプロン姿の男がのっそりと現れた。まともに立ったらぶつかってしまうペンダントライトを、背中を丸めてやり過ごし、彼は二人のそばまでやって来た。 「様々な事情で保護された動物たちを、新しい家族のもとへ送り出すための店です」  長身をますます折り畳んで、蝶にお辞儀をする。 「いらっしゃい、蝶さん。久しぶり」 「ご無沙汰しております。ご商売が順調なようで何よりです。さて、万里(まさと)さん。昨日お話した通り、客として参りました。いらっしゃいますか? この子なんですけれど」  蝶はなんの躊躇いもなく、ジッパー袋を彼に手渡した。  重たい前髪の下で、彼の眉根がぐっと寄せられた。 「これはまた……可哀想に。ジャンガリアンの、灰色の、女の子だね……いますよ」 「そうですか。実はこういうわけでして──」  蝶はことのあらましを万里に聞かせた。その間、絵麻は居た堪れない思いで、足元に目を泳がせていた。
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