蝶の店

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 一旦、裏に消えた万里は、小さな筺に一匹のハムスターを連れて戻って来た。 「えっ、ムーちゃん……?」 「よく似た別人だよ。たまたまうちの子の中に、そっくりな子がいただけ」  絵麻ははっとして蝶を振り返る。 「も、もしかしてこの子を、ムーちゃんだって言って、結萌ちゃんに返せばいいってこと?」 「それも結構ですが、絵麻さんが連れ去った事実は、結萌さんにお話しなければなりませんね」 「じゃ、じゃあ……どこかで見つけた振りをして」 「……ふふっ」  それまで穏やかに微笑んでいた蝶が、小さく吹き出した。  絵麻にとっては、動画で見る憧れの美容系配信者のように輝いて見える蝶が笑っているのだから、これが正しい選択なのだと背中を押されたように感じた。 「この子、ください!」 「あのね、お嬢さん。きっとムースちゃんの家族の女の子は、すぐに別人だって気付くよ」 「じゃあ、どうしたら」 「僕がこの店を始めたのは、辛い目にあった子たちに、今度こそ幸せになれるお家を見つけてあげるためなんだ。思ったのと違った、とか、性格は好きだけど見た目は嫌だとか、身勝手な理由で放棄される子たちを生まないために、僕にはの力がある」 「縁結び?」 「生き物同士の魂の相性が僕にはわかる。だけどたいてい、お客さんが一目惚れで引き取りたいと思う子は、運命の子じゃないんだ。そういう時、僕は縁を結んでる」  カウンター裏の壁には、新しい家族と幸せに暮らす動物たちの写真が飾られている。  最良のパートナーが見つかる、それがこの店のだ。
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