蝶の店

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「ムースちゃんは、お家に帰りたがってる」  万里が、ムースの眠るカプセル()を開ける。すると、中から小さな火の玉が浮かび上がった。  ちょろちょろと行き場を失くして彷徨う火の玉を、彼はそっと両手に包む。 「僕の力で、ムースちゃんの魂をこっちの子と同居させてあげるから、連れて帰ってあげて」 「そしたら、結萌ちゃんはこの子をムーちゃんだって信じるのねっ?」  絵麻はほっとして、笑顔まで零した。同意を求めるように蝶を振り返る。  すると、それまで小さく笑いながら見守っていた蝶が突然、小さな肩を抱き寄せた。 「角が立たない解決法が見つかって、わたしも結萌さんに報告しやすくて助かります。──ですが」  にっこり微笑み、怖いほど美しい顔を絵麻に突き合わせた。 「それではあなたへの罰にならない」 「ば、罰……?」 「ええ、イケナイことをしたら反省しなくてはならないんですよ? 学校で習いませんでしたか? 反省できないのなら、罰を受けてもらわなければなりません」  笑顔を貼り付け、淡々と語る女に絵麻の心臓が跳ね上がった。恐怖に染まった血が全身を駆け巡り、冷や汗が吹き出す。  恐ろしくなって身を捩るも、蝶の手はしっかりと絵麻の肩を掴んで逃がそうとしなかった。しなやかな手のどこにそこまでの力があるのか、絵麻は一歩たりとも動けない。  蝶は万里に何事か耳打ちした。彼は一瞬ひどく驚いた顔をした後で、できますと頷くと、絵麻に憐れむような目を向けた。 「そ、それじゃ……今からムースちゃんの縁結びを始めます」  万里の右手には、火の玉が握られている。そしてどういうわけか左手は、絵麻へと伸びていた。
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