蝶の店

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 結萌は待ち合わせに遅れてやって来た絵麻に憤るでもなく、ひたすら心配する様子だった。  一昨日にも会ったばかりだというのに、絵麻は久方ぶりの再会を喜ぶように、結萌に抱きついて「お待たせ」と声を絞り出した。 「結萌さん、こんにちは。ムースさんをお連れしましたよ」 「こんにちは! 昨日頼んだばかりなのに、もうですか? 蝶さん、すごい!」  筺を覗き込んだ結萌は、すぐにムースを手のひらに包み込んで、まじまじとその姿を確認した。それまで忙しなく動き回っていたハムスターは、ぴたりと動きを止めると、何かを訴える様子で結萌の顔をじっと見つめた。  結萌もわずかに首を傾げる。 「どうかしましたか?」 「えっと……ムーちゃん、だけど何かいつもと違うような気がして」 「一週間、外で過ごされていたようですからねぇ。今朝、わたしが少しばかり毛並みを整えたせいかもしれません」  ムースはぷるぷると身震いした。まるで、違うと首を振っているようだ。  結萌はもう一度ハムスターをよく見て、大きく頷いた。 「うん、気のせいですね。やっぱりこの子は、ムーちゃんだ!」  ムースが抗議の声を上げるのを遮り、蝶が問う。 「参考におうかがいしたいのですが、そう思った決め手は?」 「だって、感じがするんです!」 「ふふ、ほほほ! そうですか! それはたいへん素晴らしい絆ですね」  蝶はいつになく愉快そうだ。晴天の公園に、高らかな笑い声が響く。
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