死にたがりのシャッター

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 真希の思った通り、ボールは吸い込まれるように闇の中に消えた。木々にぶつかることもなく、風を切って進んでいく。  遠ざかるボール目掛け走るロディが、闇に溶け、やがてリードの最長距離に到達した。  くくっ……と喉元が締まる。闇の中で、ロディはボールを追おうと足掻いているようだ。予測不能な動きで緩急付けて首を締められる。それは予想していたよりも、ずっと苦しいものだった。  絡みついたリードに締め上げられ鬱血した頭部が、膨れ上がって破裂するのではないかとおかしな錯覚に襲われた。咽せることすらできず、舌を突き出した口蓋の奥からは、声とも音ともつかない空虚な息が漏れる。  死にたいはずの真希なのに、あまりの苦しさに無我夢中で抗い、足をばたつかせた。  そこで不意に、ぴんと張り詰めていたリードがたわんだ。ロディの息遣いと足音が帰ってくる気配がする。  首輪が弛み、真希の気管に濃い緑の空気が怒涛の勢いで流れ込んだ。ねばついた涎を吐き散らしながら、真希は長いこと咳き込んだ。  帰ってきたロディが、どうしたのと不安げに低く尻尾を振ってうろうろしている。その後ろから、小枝を踏む音が近付いてくる。  ぱき、ぽきり……と。
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