死にたがりのシャッター

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 闇の中から、人影が滑り出た。  手指の骨を鳴らすように、両手を組んで現れたのは、真希と同年代と思しき二十代後半の男性だ。手のひらに、ロディのテニスボールを握っている。  地面を舐めるようにもがく姿を、見下ろされていることに、真希の理性が羞恥心を連れて戻ってきた。  不自然に絡んだリードと、涎にまみれ這いつくばった無様な女。どんな状況かは分からずとも、目的くらいは場所柄……察せられてしまうだろう。それが真希には恥ずかしい。死にきれなかった姿を他人に見られるなんて、それこそ死んでしまいたかった。 「……あー、このボール。君の?」  答えようにも、喉が潰れてうまく声が出なかった。それで頷きながらも、ロディの方を指差すと、彼は「行くぞ」とボールを上に投げた。なだらかな放物線を描くボールを、ロディは見事にキャッチして、褒めて褒めてと駆け回る。  そんな見慣れた光景が胸に迫って、真希は咽び泣いた。他人がそばにいようが、止めようもなく涙が溢れてくる。 (よかった、ロディを巻き込まなくて、よかった……)
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