死にたがりのシャッター

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 と、同時に室内に明かりが灯った。真希は思わず目を見張る。  打ち捨てられた倉庫だとばかり思っていたので、どうせ中は埃っぽくて、雑多に物が押しこめられた汚い場所を真希は想像していた。  それがまさか、白を基調とした、ちょっとしたアトリエ風の異空間が待ち受けていようとは、思いも寄らなかった。  白い壁には、ウォルナット調の額に入った写真がいくつも飾られている。 「ここは……?」 「一応……店かな?」  なぜか自信なさげに青年は答えた。  明かりに晒された彼の姿にも、真希は驚かされた。  明るい所で見れば、真希よりやや若い二十代半ばといったところか。青年は、テレビで見る俳優やアイドルのように整った顔をしていた。背は高すぎず、すらりとしていて……はっきり言って、真希の好みにぴたりとハマる。  都内にいたってなかなかお目にかかれない部類のイケメンが、こんな山の中にいるなんて不自然すぎる。きっと狐か何かにつままれているのだと、真希は自分に言い聞かせた。狐じゃなくても、怪しげな勧誘をされたりするかもしれない。真希は慎重に、言葉を交わした。 「名前は?」 「染谷(そめたに)レイ」  名前までどこか芸能人のようで、外見と名前のイメージがぴったりだ。 「ここはどういうお店?」 「俺の、記憶を売ってる」 「記憶?」  レイの指が壁の額縁に、真希の視線を(いざな)った。
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