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住宅街の角を曲がる。向こうに寂れたバス停の看板が見えた。バスはいつ来るのだろうか。急いだ方がいいかな、とか考えていた時、急に背後から腕を掴まれた。 ちょっと何いきなり?まさか誘拐?ここで振り返ったら口を塞がれたりするんだ、と思いながらもつい振り返ると、違う意味で息が止まりそうになった。 「ちょっとこっちの道に入って」 「は……はい?」 その人は、私が最も近づきたくなかった存在───柏原くんに他ならなかった。 腕を掴む力はすぐに緩み、私はゆっくりとそれに引かれ、路地に入り込んだ。何をするつもりだろう。 「時間的にはちょっと不明だな。でも今くらいのはず」 柏原くんがそう呟いた瞬間。その声にかぶさるようにして、私がさっき歩いていた道を、結構なスピードを出した車が通り過ぎたのだ。 車の音が遠ざかっていく。目の前でこの人はふっと息を吐くと、私の目を見ながら真顔で言う。 「これで君の制服は無事だ」 「……え?」 色々と理解が追いついていかない。柏原くんはそのまま路地から抜けて、さっきの道に出た。そして少し歩いてバス停のところまで来ると、その看板を指す。 「これが証拠」 下に大きめの水溜りができていた。そしてそこから飛び散ったであろう汚れた水しぶきが、その後ろの定休日の不動産屋のシャッターを茶色く染めている。 「ここに君が立っていれば、間違いなく制服は汚れていただろうな。車の存在に気づいてもここからじゃ逃げ込める路地もないし。制服を洗うにしても、その素材じゃクリーニングじゃないと無理だろ?」 柏原くんはまるで珍しい虫でも見つけた子供のように、無邪気にそう言う。なぜか楽しそうだった。 「……あの、なんで……」 今気づいた。この人の心に闇はない。 「なんでそこまで……」 だから私はちょっとだけ話してみる気になった。 「見えたからには、阻止しないわけにはいかない」 再び真顔に戻ったこの人の今の一言に、私の胸はぎゅっと掴まれる。呼吸が浅くなる。 「予知夢……?」 そう聞き返した声がちょっとだけ震えた。動揺を隠すなんて苦手だ。 柏原くんは黙ってうなずいた。私はそのまま動けなかった。とにかく柏原くんが、予知夢で私の制服が汚れるのを阻止してくれたということはわかった。今の言動でこの人の能力が本物だということに少し確信が持てたのだが、ここでもし会話の話題が自分に移ったらどうしよう?もしかして最初から全部知ってる? その双眼に全てが見破られていそうで、一気に目の前の人物が恐怖に変わる。
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