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それなのに、柏原くんはそこに再び柔らかい笑みを浮かべる。この紳士的な感じ……やっぱり似合ってる。
「とにかく、君の制服が無事でよかった。あ、」
柏原くんが振り返る。
「バスが来たんじゃないかい?じゃ、僕はここで」
柏原くんはそのまま踵を返した。あまりにもあっさりしていて、慌てて「ありがとう」と呟いたのだが、多分届いていない。ちょうど来たバスに乗り込むと、一気に疲れが押し寄せてきた。
とりあえず、チカラのことがバレずに済んだ。よかった、と胸を撫で下ろしつつも、今後のことを思うと、再び朝の頭痛が復活した。私はこれから一年間ずっと、柏原くんと同じクラスなんだ。いつバレてもおかしくないし。
それにしても、そんなに「制服」って連呼しなくたって。
私は窓に映る自分を見ながら、そう思い返していた。なぜか頬が自然と緩んでいく。
……「君」で止めとけばいいのに。その方がよっぽどカッコいいのに。
だけどそれも、実はあの人なりの照れ隠しなんじゃないか、なんて思ってしまう。私は別に制服なんてどうでもいい。
だけどその言葉の断片が一つ、私の心を針のように突き刺している。
「見えたからには阻止しないわけにはいかない」。
今ではこの一言が全然、頭から離れない。
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