1/6
前へ
/42ページ
次へ

私はいつも、自宅の最寄のバス停では降りない。 その一つ手前、商業施設が密集してて、電車の駅もあって、いつも人が多くて賑わってる街の中心地。バスターミナルも大きくて、初めて来た時はどこが乗り場かわからなかった。 そこで私は、大勢の人に揉まれながら下車する。そして、可愛い雑貨屋やカフェに寄って放課後を満喫……みたいなことをするわけではない。 私は駅構内の商業施設を歩く。北口の方の、あまり利用者が多くない改札の手前に、隣のビルに繋がる渡り廊下のような場所がある。 その通路の壁には、まるで写真展のように、いつもたくさんの写真が飾られていた。 どこかの山の山頂から映した初日の出、森林の中に佇む神社、海辺の秘境駅。日常的によく見かける題材から、まるで異世界のような雰囲気を感じられる風景まで。そんな統一感のない作品だけど、そのどれもが、なんというか、「情緒」を感じられるものだった。 あの日も、同じ。 制服を受け取るためだけに、一番最初に高校に登校した日。 時間があったから、このあたりを散策してみようと思った。実際この駅で降りて遊んで帰っている人も結構いる。私の場合、目的が違うんだけど。 その日は雨が降っていた。私は南口の方に行くつもりだったけど、どこで間違えたのか、北口の方に出てしまった。そのとき見かけたのが、ここに展示された写真たちだった。 私はその中の一枚に惹かれて。 気づけばすぐ目の前にその写真があった。 「彩雲」。 細いボールペンで書かれた手抜きなカードが、その写真の下に貼られていた。 私はこれをみるまで、彩雲というものを知らなかった。だから、特に新鮮に目に映ったんだと思う。 あとで調べたところ、それは太陽の近くを通りかかった雲が彩られる現象だということがわかった。やはり頻繁に起こるものではなく、見つけると幸せになると言われているらしい。 そんな瞬間だとは知らずに、ただ見入った。加工かとも疑えるような色合い。人生で初めて目にする空。 「綺麗……」 そんな声が漏れた。 「ありがとー」 ちょっとハスキーで中性的な声が、私の鼓膜を震わせた。 にしても何、そのお礼……。 私は振り返る。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加