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私は、この春から高校一年生。
とは言っても、私は何も変わるつもりはない。今まで通りそのチカラを隠して、誰にも気づかれないように生きていく。
私は今の自分の方が、チカラをひけらかしていた昔の自分よりは好きだった。
もうこれでいい。中学の頃の悪夢なんて、なかったことにしたいから。
それが頭によぎってきて、慌ててトーストにかぶりついた。いつもと同じ味が口の中に広がり、同時に口の中の水分を奪っていく。コーヒー牛乳で全部流し込んだところで時計を見ると、もう家を出なければいけない時間だった。
「あんたもお姉ちゃんを見習いなさいよ」
母はいちいち嫌味なことばっかり言う。自分の体調があまりよくないのか、そういうことはよく分からないけど、人に当たるのはやめてほしい。
私はそのまま何も言わずに学校のカバンを掴んで、家を飛び出した。
行ってきますくらい言わなきゃダメだったかな。
私は昨日の雨で湿ったアスファルトを駆けていく。バス停まで着くと、列に並んでいた二つ前に、同じ制服を着た子がいた。
この子、知ってる。多分同じクラスだ。
確か一番前の席に座っていて、二つに分けた三つ編みをサイドでお団子にまとめているのがあまり見ない髪型だったから、よく覚えていた。
だけど、私は声をかけられない。
その子の胸のあたりに、黒くゆらめく火のようなものを見たから。
「闇」だ。
また見てしまった。
私が持っているチカラ。
それは、人の心の奥に潜む「闇」が見えてしまうこと。
「闇」は、大まかに言えば「悩み」を意味する。それも、絶対に誰にも言えないくらい深刻で、こっちが決して足を踏み入れてはいけない悩み。
もし踏み込めば、全てが壊れてしまうことを、私はちゃんと知っている。
だけど私は、闇を抱えている人と話すことができない。
もし不覚にも、その人の闇に関わる話題を出してしまったら。目の前でその人の表情が曇ったり、怒りの色が見えたりするのが怖かった。それで何も知らないふりなんてできないし、だから私は闇を抱えている人に近づくだけで、決して触れてはいけないものに触れてしまったような罪悪感すら感じてしまうんだ。
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