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私はどうにかそのチカラをいいように使えないかを考えるようになった。 例えば、私が見つけた闇について、その人の話を聞いてあげることで、闇を消せるんじゃないかって。 だから私は一回試してみた。 最初に声をかけたのは、当時クラスが一緒だった女の子だった。 クラスの中心にいて、いつもみんなを笑わせている彼女が闇を抱えていることが、にわかには信じられなくて、最初は困惑したけど、思い切って声をかけた。 「あの……いきなりだけど、何か悩んでること、あるの?」 「えっ……」 その子の表情が変わって、ドキッとした。聞かなければよかったと思ったけど、私はもう後には引けなくなった。 「何か辛いこと、あるんだよね?よかったら……話してくれない?」 今では、いきなりこんなことを言ってくる人がいたら明らかに相手を不快にさせることは分かっている。自分がひた隠しにしてきた悩みに、この人はいとも簡単に踏み込んでくるんだと。 自分だったら、そんな人に絶対に自分の悩みを話したりはしないと思ったけど、その子は違った。私のその質問を聞いた瞬間、こっちが逆に驚かされるくらい唐突に、一筋の涙を溢した。 おろおろする私に、その子は「ごめんね、ごめんね……」と言いながらしばらく泣いていた。理由を説明することができないくらい、止めどなく流れていく涙。 過去を閉じ込めた箱の紐を、するすると引き抜いていったように。 何も言えなかった私の前で、その子はしばらくして、涙を拭いて微笑んだ。 「なんでわかったの?……ねえ、聞いてくれる?」 その子の祖母が最近亡くなったらしかった。詳しいことは忘れたけど、たしかその子は母子家庭で、忙しい母親の代わりに祖母が面倒を見てくれていたらしい。 私はろくな相槌も打てなかった。自分とその子の状況が違いすぎて、下手に何か慰めても、その子を傷つけるかもしれない、と思った。 「……聞いてくれて、ありがとう」 最後に、その子は力無く笑った。私は首を振る。そして、気付いた。その子の胸のあたりにあった闇が消えてなくなっていることに。 悲しみはおそらく消えていないはずなのに。なんでだろう、とそのときは思ったけど、あとになって考えてみて、こんな結論に至った。 闇は、その内容を誰かに話すだけで消えてなくなる、ということ。
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