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クラスには、すでにいくつかの輪ができている。
席が近くてできたグループや、まず初めに同じ部活の子と繋がっておこう、みたいな流れでできたグループとか。
私はその中に数人、闇を抱えている人を見た。そこからすぐに目を背ける。変に目が合って関わることになったら厄介だ。
「おはようございます!」
そう言いながら教室に入ってきたのは、今年から私のクラス、1年C組の担任となった若手教師の港先生だった。教科は数学。高身長でルックスもそこそこ良いから、一部の女子の間で噂になっている。
「今日は一時間目のホームルームで自己紹介してもらうから、何を言うか考えておいてね」
クラスがざわめく。昨日から言われていたけど、そこまでしっかりと計画してくるような人はさすがにいなかったようだ。お互いに「どうする?」と顔を見合わせたりしている。男子に至っては「お前一発芸やれよー」と言って騒いでいる人たちもいる。
私はどうしよう。
もう前の人のを聞いてその場で考えようかな。
そんなことを考えているうちに、すぐに始業のチャイムが鳴った。生徒たちが席に着く。
そして、保護者向けのプリントが配られたり、諸連絡があったりしたあと、自己紹介の時間になった。
出席番号順に、名前、出身中学校、入っていた部活などを一言ずつ話していく。部活の話題があれば少しは話が膨らんだんじゃないかって思うけど、残念ながら私はどこの部活にも入っていなかった。中学に入学したときから特に興味を持てるものがなくて、気がつけば帰宅部になっていた。
「私は吹奏楽部で、クラリネットをしていました!高校でも吹部に入りたいと思っています。一年間よろしくお願いします!」
前の席の子が、高い位置で結んだポニーテールをぴょこんと揺らしてお辞儀をしている。その明るい声は、周りをも笑顔にさせるものだった。私もこんな声があれば、と思いながら、もう半ば諦めつつも立ち上がる。
クラス全員の視線が私に注がれている。その緊張に、心臓が急にバクバクと鳴り始める。
「大凪菜弥美です。N中学でした。えーと……」
ああ、もう言うことがない……。
「……一年間、よろしくお願いします」
軽く頭を下げると,パラパラとまばらな拍手が教室を包んだ。私は一つ息を吐くと席に着く。自分の言ったことを反芻する。緊張はおさまらなかった。
そして、私の一つ後ろに座っていた男子が立ち上がる気配がした。男子とは思えないほど丁寧に椅子を入れ、その人は落ち着いた口調で言った。
「柏原歩真です」
掠れた部分のない、澄んだ声だった。私は思わず振り返る。
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