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少しだけ癖のある髪。きっちりと規定通り着こなされているブレザー。身長はそこまで高くないのに、スタイルが良い。なんとなく紳士のような立ち振る舞いで、この人はクラスを見渡した。 「春休みにこの街に引っ越してきました。部活はサッカー部に入っていました」 引っ越してきたんだ。珍しい。部活に勤しんで青春エンジョイしてる、そういう人とは私が関わる機会はなさそうだな、と思った。 でも、この人は、私が絶対に言えないようなことを、まるでちょっと遅刻した理由を言い訳するくらいに、軽く言ってのけるのだ。 「実は僕には特殊能力があります」 「は、なんだよそれ」 斜め前の男子が笑った。多分馬鹿にしたんじゃなくて、ただボケにツッコむような感覚で。 「その能力は、予知夢です」 予知夢……? あまりの声のトーンの静けさといい真面目さといい、この人……柏原くんの表情が全くもって変わらないことに、今度は逆に教室が水を打ったように静まり返ってしまった。 「以上です。一年間よろしくお願いします」 そうして席についた直後。 私の時とは比べ物にならないくらいの拍手が、柏原くんに降り注いだ。 「お前な、そのボケはちょっと攻めすぎだろ!」 「一瞬ガチのやつかと思うじゃねーかよ」 「柏原か……やるなお前」 そのほとんどが男子からのものだった。ちなみに最後の一言は、私と同じ学校で、クラスのお笑いキャラを名乗っていた人のものだった。このクラスでの彼のお笑いキャラの座は、すでに脅かされているのかもしれない。 だけど当の本人は微笑しているだけで、その全てを受け流しているようだった。 でも私は……さっきから「特殊能力」という響きが頭から離れない。 この人が話している独特の雰囲気。みんなは冗談として受け止めてるけど、もしかしたら。 本当に予知夢が見られたりするのかな……。 わずかにでもそう思ってしまうのは、私自身が闇を見るチカラを持っているからだろうか。 その衝撃的な一言に頭を巡らせているうち、全員の自己紹介は終わっていた。最後に港先生が自分の好きなハリウッド映画について語っていた途中、チャイムが鳴り、休み時間になった。 柏原くんの周りには、すぐに数人のクラスメイトが集まった。 でも実際集まったのが数人なだけで、実は何人かも遠くからその会話を聞いていた。私は席が前なので、嫌でもその声が耳に入ってくる。 「なあ予知夢ってガチ?」 「まあ」 柏原くんがそう軽く答えるので、周りの男子たちはさらに質問をした。 「じゃあさ今日何が起こるか教えてくれよ」 「ああ。だけど君は……本当にそれを聞いていいのか?」
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