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冤罪
「って事なんですよ」
わたしは、そこまで話すとお湯でかなり薄められたブラックコーヒーに口をつけて一息した。
名刺を再度見るも、ゴースト司法書士 アニマル鍬形
あやしい。クワガタはアニマルじゃないし。
目の前の男はわたしが作成した時系列の文章に、何かチェックやメモを書き込んでいる。
このような話を何度も話すのもしんどいし、時間が経つと記憶が変わる可能性もある。
わたしはイベント会社で物や人の配置をするセクションにいるから、この辺の文章は得意なのだ。
男はアラフォーだろうか、30代にも50代にも見える不思議な印象だ。
なぜか着ぐるみの首から下だけ着ているから、年齢のイメージがつきづらい。
いや、年齢よりもバカなのか?のが心配だ。
しかし、このような相談はあてが無い。
電話占いに相談したら、前世が関係していますやら新しい彼氏が現れますやら、トンチンカンな返答をされ、宗教団体の自称神様に頼んだら給料1年分くらいの額を請求された。
男に渡した、資料はこうだ。
実波玲(みのはれい)22才
時系列
1か月前、幼馴染の佐奈田條斗(さなだじょうと)
22才に告白された。
子供の時から、わたしに好意があったらしい。
わたしが2か月前に、会社の上司と別れた事を告げてからやたら連絡やらアプローチが強くなった。
しかし、わたしは興味がないと丁寧にお断りをした。
問題はそこからだ、條斗を正式にふった数日後から深夜1:00に必ず枕元に幽霊が出るようになったのだ。
金縛にあい、目を天井にむけると頭から女が覗き込むのだ。
「條斗くん、に返して」と。
意識が朦朧とした中の出来事で、金縛がとけ夢から覚めたようにガバッと起き上がると誰もいない。
寝汗と呼吸困難が毎晩1:00に続いた。
週末に條斗をカフェに呼び出し、その事実を伝えた。
ピンクの髪、白いパーカー、下は下着のみという容姿に條斗の顔は物理的にわかるほど、青ざめていた。
條斗は断片的ながらに、話はじめた。
條斗には付き合っている彼女がいたらしい。
その彼女がLINEでのわたしと條斗のやりとりを、見てしまった事。
わたしはLINEの中では、ぼやかしていたのでキッパリと断った事を彼女はしらない。
もしかして、わたしが誘惑していたんじゃないかと疑われ條斗は苦し紛れにそうだと答えたらしい。
事件はその後に起きた。
彼女が條斗の住むマンションの下で転落死していたのだ。服装は白いパーカー、下は下着のみ。
ピンクの髪だけが、赤く血で染まっていた模様。
警察は現場検証の結果、事故の方向で終わらせようとしているらしい。
日付を聞いてみると、彼女がわたしの枕元に立つようになったのは事故の翌日からであった。
彼女の名前は佐倉真夏(さくらまな)やはり22才。
「で、どうされたいんですか?」
男はわたしの資料から目を離さずに言った。
「この佐倉真夏さんの、誤解をときたいんです。アホの條斗のとこいくならわかるけど。なんでうちにくるのよ、って」
「10万円です。もし、解決しなかったら経費を除いてお返しします。
男は指を一本立て、わたしの目を凝視した。
「経費とは?」
「1日10万円です」
返す気ねえじゃん。とわたしは立ちあがろうとしたが、男の目がいやに確信めいたようにわたしを動かさずにいた。
1日で解決してやると、、そう見えたのだ。
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