シーン2

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 翌日の早朝に、叶は家を出た。  春に取ったばかりの免許がようやく役に立つ。中古で買ったけれど、あまり利用してなかった軽自動車に乗り、菟足村を目指した。  菟足村は山間にある山池、おみず沼より下流にある。近くに温泉が湧いていて、県内では湯治場としてそこそこ有名だ。  菟上家は菟足村の外れ、おみず沼近くに屋敷を構えているらしい。そこに行く前に、おみず沼をぐるりと囲むように敷かれた県道を通り、ネットで集めたおみず沼にまつわる怪談の現場を見ていくつもりだった。  明け方に降っていた雨も出かける頃には止んでいた。晴れていたら、透明度の高いエメラルドグリーンの色合いを見せるおみず沼が拝めると思っていたが、山の木々の間から垣間見えるおみず沼の水面は、あいにく灰色の空を映し、くすんだ青色に染まっていた。  国道を外れて県道に入る。その途中、菟足村の村境に道祖神が祀られていた。道祖神は、村内外の境に置かれ、村を疫病や悪霊から防ぐと言われている。また旅人の安全を守る神でもあると本で読んだ。
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