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「そうだ、織田主任。今度のプレゼン上手くいったらご褒美くださいよ」
数日後に迫った営業プレゼンの書類に目を通していた織田のデスクの上に、回転椅子を滑らせて移動してきた笠狭木が棒付きの飴を差し出して言った。
「は? ご褒美?」
礼を言って飴を受け取りながら、怪訝な顔で聞き返す織田に、笠狭木はにまっと口角を上げて答える。
「そ。ほら、ご褒美があったほうがモチベーションが上がるっつーか、俺、褒められて伸びるタイプなんですよね」
自分の飴の個包装を外して口に咥え、頑張った部下を労うのも上司の務めでしょ、と強請る笠狭木を一瞥し、渋い返事をしながらも、今回の企画でチームを率先して引っ張りまとめ上げたのは、確かにこの男の功労だなと思い至る。
一見軽そうな雰囲気だが、任された仕事は期待以上に仕上げてくる笠狭木に目をやり、織田はひとつ息を吐いた。
「まぁ、飯くらいなら奢ってやるよ」
手持ち無沙汰に指で摘んでクルクルと回していた飴を引き抜いた笠狭木が、袋を剥いで織田の唇に近づける。一瞬躊躇ったが、飴を持ったまま凝視して引きそうにない様子に、仕方なく口を開けて飴を受け入れる。
遠慮がちに開かれた口から、ちらりと覗く赤い舌に飴を乗せた笠狭木が、静かに喉を上下させた。
「俺マジで……頑張ってるんで、おねだりひとつ聞いてくださいね」
約束ですよ。 そう言って笠狭木は薄く笑った。
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