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「……っん、ぁ」
腕を押さえつけたまま、噛みつくように唇を重ね、織田が身じろぎ僅かに開いた口を割り、舌を捩じ込ませて貪るように口内を蹂躙する。
喘ぐ吐息の隙間から漏れる濡れた声と、卑猥に響く水音に煽られ、角度を変えながらさらに深く織田を求める。
「……っ……織田さん……俺、もう」
背中を走る淫靡な感覚に身体を震わせて、笠狭木はもどかしい手つきで織田のシャツのボタンを外し、スラックスのベルトに手をかけた。
「! やめっ、はなせ……!」
暴れる織田を上半身で押さえつけ、首と鎖骨に赤い所有印を散らしながら、下着ごとスラックスを膝下まで下ろす。露わになった織田の竿を笠狭木の大きな手が優しく包み、ゆっくりと上下に扱き始める。
「ひ、ぁ……っ」
体勢も体格も笠狭木にはかなわず、されるがままに弄ばれる行為に耐えられず、織田の目に涙が滲む。
「かさ、さぎ……なんで、……」
つたう涙を吸い上げるように、笠狭木が目尻にキスを落とす。
「──織田さん……」
強要する行為とは真逆の、あまりにも切ない声音で呼ばれ、織田は固く瞑っていた瞼を開いて笠狭木を見上げた。
そこには、今にも泣きそうな顔で織田を見つめる笠狭木がいた。
初めて見る表情に、思わず息を呑む。
「……好き、なんだ。アンタの事が」
「もうずっと前から、俺にはアンタしか見えないんだよ」
そう言って織田の首筋に顔をうずめて、両腕で織田を抱き締めた。
微かに震えるその身体を全身で感じ、織田はどうしていいか分からなくなる。
「でも、俺には──」
織田には付き合っている恋人がいる。
笠狭木の気持ちに応えることはできない。
織田の言葉を察したのか、笠狭木の肩がピクッと動き、抱き締める腕に力がこもる。
「───……」
「え? なんて──」
小さくて聞き取れなかった笠狭木の言葉を聞き返そうとした織田は、顔を上げた笠狭木を見て言葉を飲み込んだ。
先程までの弱々しい表情が消え、その目には怒気を孕んだ熱が滾り、真っ直ぐに織田の瞳を射抜いていた。
「アイツにはもう、渡さない」
徐ろにヘッドボードの棚からローションを取り出し、手のひらに垂らして握るように温める。
「……やめろ、笠狭木」
これからされる行為を理解し、織田が身を固くして笠狭木から離れようと体を上方へずらす。
「逃げないでよ」
ふっ、と自嘲気味に笠狭木が笑う。
ベッドから下りようと身を捩った織田の腰を抱き込み、笠狭木が力ずくで織田の体を引きずり戻す。
「っ、カササギ!」
「お願い、俺を受け入れて」
ローションに濡れた笠狭木の指が、織田の後孔の縁を解すようになぞり、肉を割り内壁をさすり上げる。
与えられた刺激に反応して、ビクンと背をのけ反らせながら、笠狭木の胸を押し抵抗を見せる織田の身体を無理やり開いて、笠狭木が組み敷く。
「や……助けて、彦──」
助けを求めて恋人の名を呼ぼうとする織田の口を、言い切る前に言葉ごと飲み込むような激しいキスで笠狭木が塞ぐ。
「今、アンタの側にいるのは俺だろ!」
伝わらない想いをぶつけるように何度も重ねる唇の熱が、思考も二人の境界線もすべてを夜の闇に溶かしてゆく。
ねぇ、俺を見て。
俺だけを見つめて。
快楽に身を任せて。
溺れるほどに、愛してあげる。
開け放たれたカーテンの向こう側には、紺青色の夜空に流れる天の川が、ただひっそりと更けゆく静寂に浮かんでいた。
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