君だけがいればいい

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 なんで、ここにいるんだ?  休日を一人でもて余し、ふらっと街に出た笠狭木は、親しげに身を寄せながら店から出てくる二人連れを見つけ足を止めた。  買い物袋を下げて歩くその姿は、どう見ても恋人の距離感で、ただすれ違っただけの見知らぬカップルであれば気にも止めなかった。だが、連れ立って歩くその一人が。  あれは、織田さんの──。  地方出張に出ていてしばらく会えてないんだと、眉毛を下げて寂し気に織田がこぼしたのは、つい先日の事だったのだ。  怒りで目の前が白む。  なんで。あれだけ織田さんに愛されているのに、なんで。  二人が去ってもその場から動けず、笠狭木は立ち尽くしたまま通りを睨みつける。行き交う人々が眉をひそめ遠巻きに避けてゆくなか、ゆっくりとこめかみを押さえる。嫌悪と怒気で頭が割れそうに痛い。  だがそれとは裏腹に、毒に侵されたような痺れに似た歓喜が、体中を這い上がる感覚に身震いする。  あぁ、これで──。  やっと、あの人が手に入る。  彼が嬉しそうに話すから、自分の気持ちを飲み込んだ。  彼が幸せそうに笑うから、溢れそうな想いを押し込めた。  彼のその笑顔を守りたかったから、伸ばしかけたこの手を握り締めた。  上がる口角を押さえるように、こめかみに当てた手を口元に移す。  冴えてゆく頭で決意する。  もう、渡さない。  全力でアンタを獲りにいく。
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