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私は全速力で走った。
こんなに走ったのは学生以来だった。
「はぁ、はぁ、あの、待って〜!」
私はやっとの思いでその人に追いついた。
「あの、これ忘れ物…。」
私は携帯を渡そうと手を伸ばした。
その瞬間私は段差に躓いてよろけてしまった。
お酒を飲んだ後に全速力で走ったせいで
私の足は限界だったのだ。
彼は、そんな私を優しく支えてくれた。
「あの、大丈夫ですか?
すみません…
俺、携帯忘れてたんですね…
あの店に居たんですか?
わざわざありがとうございます。」
その人の声はとても優しい声だった。
爽やかで、まるで森の中で鳴いている小鳥の様な澄んだ声をしていた。
(何この声…。癒されるんだけど…)
私は彼に腕を支えてもらいながら、
しばらく見つめていた。
「あの…大丈夫ですか?」
私は酔っていたのか、それとも彼の声に癒されていたのか、しばらく放心状態になっていた。
「あっ、ごめんなさい…
私ったらぼーっとしてしまって…
支えてくれてありがとうございました。
じゃ、用が済んだので失礼します。」
私は急に恥ずかしくなって、その場を去ろうとした。
「あの…どこかで会った事ありますよね?
えーと、どこだったかな…?」
彼は考え込んでいた。
私はただただ恥ずかしくてその場を去りたかった。
「気のせいじゃないですか?
会った事ないと思います。
では、私はこれで失礼します。」
私は逃げるようにその場を立ち去った。
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