第一話 怪しい人

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私は全速力で走った。 こんなに走ったのは学生以来だった。 「はぁ、はぁ、あの、待って〜!」 私はやっとの思いでその人に追いついた。 「あの、これ忘れ物…。」 私は携帯を渡そうと手を伸ばした。 その瞬間私は段差に躓いてよろけてしまった。 お酒を飲んだ後に全速力で走ったせいで 私の足は限界だったのだ。 彼は、そんな私を優しく支えてくれた。 「あの、大丈夫ですか?  すみません… 俺、携帯忘れてたんですね…  あの店に居たんですか?  わざわざありがとうございます。」 その人の声はとても優しい声だった。 爽やかで、まるで森の中で鳴いている小鳥の様な澄んだ声をしていた。 (何この声…。癒されるんだけど…) 私は彼に腕を支えてもらいながら、 しばらく見つめていた。 「あの…大丈夫ですか?」 私は酔っていたのか、それとも彼の声に癒されていたのか、しばらく放心状態になっていた。 「あっ、ごめんなさい…  私ったらぼーっとしてしまって… 支えてくれてありがとうございました。  じゃ、用が済んだので失礼します。」 私は急に恥ずかしくなって、その場を去ろうとした。 「あの…どこかで会った事ありますよね? えーと、どこだったかな…?」 彼は考え込んでいた。 私はただただ恥ずかしくてその場を去りたかった。 「気のせいじゃないですか?  会った事ないと思います。  では、私はこれで失礼します。」 私は逃げるようにその場を立ち去った。
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