第一話 怪しい人

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私は息を切らしながら走った。 (今日は走ってばっかりだな…。) "会った事ない"って嘘だった。 本当はスーパーで会っていた。 だからなんだと言われればその程度だ。 その程度の事だ。 お客さんなんて私なんかに興味がない。 ただ買い物に来ているだけだ。 私はフラフラになりながら、家に帰った。 寂しい一人暮らしだった。 小さなワンルームの部屋に一人。 (何のために働いているんだろう…。) ただ虚しい毎日だった。 「はぁ…疲れたなぁ…飲み直そう。」 私は冷蔵庫で冷やしておいたビールを取り出してそのまま喉に流し込んだ。 着替えもせずにソファーに座ってテレビをつけた。 チャンネルを切り替えていると懐かしい音楽が流れてきた。 学生の時聞いた事がある曲だった。 私は高校生の時好きだった彼の事を思い出していた。 (懐かしいなぁ…この曲…。 これ、ものまね歌合戦かな? この人誰だろう?歌上手いのかな?) テレビの向こうに立っている男性は 背が高くて小顔でとても綺麗な顔をした 人だった。 (俳優さんかな?) その人が歌い出した。 その瞬間、私の中で何かが爆発した。 その歌声に私は自然と涙が溢れていた。 (すごい…。この人綺麗な声…。) 私はその人にくぎ付けになってしまった。 私は鞄から携帯を取り出して検索してみた。 その人の名前は春。 年齢は21歳で、声優と俳優をしているようだった。 (声優か…。すごい綺麗な声だったもんな。 歌上手いわけだ…。) 私はこの人に関していろいろ調べてみた。 小さい頃から芸能界にいるみたいで、 芸歴は十六年だった。 でも、売れるのが遅くて最近やっと目が出たと書いてあった。 (下積み時代が長かったんだな…。 芸能界も大変そうだよね…。 五歳から芸能界にいるなんて… きっと苦労したんだろうな…。) 私はその日以来春くんが気になって仕方がなかった。あの歌声が忘れられなくて、 私は毎日、春くんの動画ばかり見ていた。
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