1

2/4
前へ
/15ページ
次へ
 僕らの学年が高校に入学してからすでに半年以上の時が経っている。けれども、蓮見さんが学校に姿を見せたのはそのうち一日のみ。  彼女は入学式の日に現れたきり、二日目から「体調不良」とのことで欠席し続けている。僕はたまたま隣の席だったからなんとなく顔を覚えていたけれど、クラスの大半が蓮見さんの顔を見ても彼女だと気がつかないだろう。  その彼女が今、なぜだか学校近くの公園でひとり座り込んでいる。 「えっとその、大丈夫?」  声をかけたもののその後どうするつもりなのか全く考えていなかった僕は、半ばパニックになりながらまくしたてた。 「今たまたま近くを通ったところで、具合悪そうだったから話しかけちゃったんだけど……」 「別に、大丈夫です。気にしないで」    ほとんど風に紛れて聞こえない声で、彼女はそう言った。くしゃくしゃの黒髪を左手で撫で、右斜め下の方に視線をそらす。 「…………」  目線の合わない彼女を前にして、僕は情けなく立ち尽くしてしまう。  余計なことをしてしまっただろうか。  彼女が何らかの事情で学校に来ずここにいるとして、僕に踏み込む権利はあるのだろうか。  声をかけたのが間違いだったかもしれない。  そう考えて、彼女に謝り立ち去ろうと決めた時だった。  ……ぐう。  気のせいでなければ、それは彼女のお腹から聞こえていた。彼女は暗い表情のまま素早くお腹を押さえて、よりいっそう僕から視線を逸らした。  妙な罪悪感に頰が熱くなった、次の瞬間。  ふと、自分が左腕に提げているものが目に留まり、あることを思いついた。 「あの——」  彼女がどうしてここにいるのかとか。  なぜ学校に来ないのかとか。  何も知らない通りすがりの僕だけど、一つだけ、自分にできることを見つけた。  ナイロンのランチバッグから弁当箱を取り出し、蓋を半分開いて彼女の前に差し出す。 「よかったら、どうぞ」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加